受験1回目(大学1年生の2月)

 前回記事「漢検1級に合格したときの話①」の続きです。

 大学1年生の10月に受験した漢検準1級に一発合格した後、1級の問題集を手に取った私は、

 うわー準1級であんなに漢字を覚えたのにまだまだこんなに漢字があるのか! ここまで来たんだし準1級止まりじゃなくて1級まで制覇したい! と再び気持ちが盛り上がってきました。

 そしてすぐに準1級でもお世話になった市販の問題集の1級バージョンを一気に購入し、それらを完璧にすることを目標に勉強を開始しました。

 勉強の仕方としては準1級と同じです。勉強時間も、毎日平均3時間程度です。昼間、就寝前、起床後などで勉強していました。

 でも、さすが1級で、一つ一つの漢字が複雑で、なかなか覚えにくかった記憶があります。特に読み取り問題は、似たような漢字が2つあると混乱したり、近い読み「きょう」と「きゅう」、「しょう」「しゅう」などでよく間違いをしていました。

 ちなみに、漢字(熟語)の意味も理解できればいいんでしょうけれど、正直、分量が多すぎて、意味をいちいち調べて理解して味わっている余裕はありませんでした。つまり、漢字が二つ並んでいるのを目にしてその音(読み)を暗記するという苦行をしていたことになります。

 書き取り問題は、読み取り問題よりも出題範囲が絞られているように感じました。書き取りをするわけですから、なにか別の漢字と間違えるとか、そういうことは読み取りよりは少なかったと思います。

 そうそう、読み取りといえば、私を苦しめたものに、「当て字」の読み取り問題がありました。普段、カタカナで表記するようなものも漢字で表示するとこうなるのか~と面白い時もあるのですが、特に、植物の固有名詞たとえば「満天星」は「どうだんつつじ」なわけですが、「どうだんつつじ」という植物自体を知りませんので、頭に何もイメージが浮かばないんです。

 当時は今から13年前(2011年)で、流行に鈍感でアナログ人間だった私は、まだガラケーを使っており、パソコンも大学のレポート作成で使うくらいで、気軽にネット検索する生活をしていませんでした。

 今なら、どうだんつつじの画像とかを見て、一応のイメージがつくように工夫すると思いますが、当時はほんとうに文字と音を結びつける暗記作業を繰り返していました。

 準1級と同じように、約300時間を勉強に充てて、2月の試験当日を迎えました。問題集3冊と過去問題集を継続して取り組んできましたが、準1級のときよりも暗記の精度には自信がありませんでした。とにかくできるかぎりのことをして、試験に挑みました。

 初めての1級の試験。試験中に私が思ったことは次のようなものです。

 「知らない漢字がちょっとある!」

 「問題集にあったけど、この漢字、正しいか不安だな~」

 結果、不合格でした。当時、200満点中の8割(160点)以上で合格でしたが、確か、150点くらいだったと記憶しています。3か月間がんばってきましたが、準1級のようにはいかないものだなと思いました。

 ただ、あと10点で合格できるんだ、とも思いました。取り組んできた問題集に掲載されていた漢字で本試験で読み誤り・書き誤りをしたものもありました。これまでの問題集を100%絶対に正答できるようにして、なおかつ+αで別の問題集をさらにやり込めば、あと10点を追加することはできるのではないか、と考えました。 

 受験2回目(大学2年生の6月)

 私の実家は名古屋市ですので、帰省したときに、名古屋駅の大きな本屋にいき、田舎の本屋には売っていなかった別の問題集を2冊購入しました。これまでの3冊の問題集を併せて完璧にすれば、次はきっと合格できるはずと考えました。

 大学2年生になりましたので、専攻分野の勉強も始まりました。人文学部でかなり文学部よりの専攻でしたので、三島由紀夫、太宰治といった文豪の本も読み漁っていました。また、知人に勧誘されて自分の通う大学の図書館でアルバイトを始めました。

 それでも時間は十分にありますので、毎日3時間は勉強していたと思います。より暗記の精度を高めるために、特に当て字については、英単語の暗記カードのようなものを自作しました。表に漢字、うらに読み、といった具合です。シャッフルして読みを口に出してひっくり返す、を繰り返しました、

 どの問題集もかなりやり込み、いつ、どの問題集のどこのページを開いても、瞬時に解答できるようになりました。もう、本当に、これ以上やりようがないくらい、完璧にしました。

 これなら絶対に合格できる。

 大学2年生の6月に2回目の漢検1級に挑みました。

 試験中、私が思ったのは次のようなものです。

 「知らない漢字がめちゃいっぱいある!」

 結果、不合格でした。しかも得点は140点で、前回よりも下がってしまい、得点率は7割でした。

 ショックでした。販売されている問題集を完璧にしたのに、本試験では知らない漢字が大量に出題されていたわけです。前回2月に受験した本試験は、まだ易しい問題だったようです。あと10点で合格できると思っていたのは誤りでした。

 受験3回目(大学2年生の10月)

 漢検は、結局、漢字のテストです。通常、漢字を覚えてさえいれば、正答することができます。それなのに合格点に達しないのは、本試験には、問題集に掲載されていない、シンプルに未知の漢字が大量に出題されるからです。

 知らない漢字を解答することはできません。

 でも、販売されている問題集はこれ以上ありそうになく、しかも、どの問題集も、過去問を分析して統計的に出題頻度が高いものを抽出してつくられているものでしかなく、正直、内容はおおむね同じようなものでした。

 2回の受験を経て、私は、問題集に頼っていては合格できない、ということを理解しました。

 では、どうするか。

 問題集が販売されていないのなら、問題集を自分で作るしかない。

 私は、漢検協会が出版している「漢検要覧」を購入しました。

 https://www.kanken.or.jp/kanken/textbook/pandect.html

 試験範囲は6,000字とされているわけですから、もうこうなったら全部覚えてやるしかないと思ったのです。

 それから、本試験では、見たことのない四字熟語がかなり出題されていることを理解しましたので、四字熟語の強化を図りたいと思い、漢検協会出版の「四字熟語辞典」も購入しました。

 そして、1級で出題される熟語、四字熟語について、自分で大学ノートに問題を作っていきました。こんなの書き取りで出ないだろうと思えてくるものについても、もし書き取りで出題されても大丈夫なように極力書き取りできるように作問しました。

 四字熟語も、上下どちらの2字が空欄になっても解答できるように、作問しました。

 当時、私はそれらをパソコンでやるという発想がなかったので、すべて大学ノートに書きこんでいました(当時のノートを探してみましたが発見できず。。。)。

 当たり前なんですけど、漢字って、一文字につき1つの読みだけではないですよね。訓読み、音読みとあって、場合によっちゃ4つくらい読み方があるわけで、それが6,000字あると考えたら、途方もない暗記をしなければなりません。

 でも、もう、それしかやり方がなかったので、辞典に掲載されている漢字をすべて覚えるつもりでこつこつ毎日3時間頑張りつづけました。

 ご察しの通り、自分で問題集を作っているわけですので、暗記作業よりも、作問作業にかなりの時間が割かれていたことになります。

 3か月が経ち、3回目の試験を大学2年生の10月に受験しました。

 試験中に思ったことは次のとおり。

 「けっこうできる! 合格できるかも」

 感触はよかったものの、結果は不合格でした。5点だけ足りませんでした。

 でも、勉強の仕方は間違っていないと確信しました。

 受験4回目(大学2年生の2月)

 同じやり方であとは極めていくだけでした。

 当時、私は大学2年生が終わる時期で、周りから「大学3年になった春から就活だよな~」という話をよく聞くようになりました。

 でも私は、漢検1級に合格しなければ就活はできない! と謎のこだわりをもって、次こそは絶対合格する、とよりいっそう漢字の勉強をしました。

 漢検を受験していることは、ときどき友人に話していましたが、みなさんさほど関心はなさそうでした。それでもあるとき、友人が私の部屋に来たとき、私が自作している問題集ノートを開いて、あ然としていました。

 たしかに、傍からみれば気が狂った人が書いたノートに見えたことだろうと思います。

 また、中国留学から帰ってきた友人からは、「こんなに難しい漢字を書けるのなら、台湾人にも自慢できるよ」と言われました。確かに、台湾の漢字は、旧字体のようなもので、画数がかなり多いですよね。

 4回目の試験、ついに合格しました。

 162点/200点だったと記憶しています。

 合格したときは、うれしい、というよりは「やっと解放される」とホッとしました。

 これで普通の大学生に戻れるんだ。。。笑

 まとめ

 漢検1級は、本当に本当に大変です。

 当時、インターネットで勉強法などの検索を一切していなかった私は、問題集では本試験に対応することができないことに気づくのに半年もかかってしまいました。

 現在なら、資格試験を受験するために、どのような勉強法が優れているのか、まずは検索すると思います。問題を提供してくれる漢検マニアの人もいるようですし。

 試験範囲を完全網羅している問題集があればいいのですけれど(現在はあるんだろうか)、結局は、研究の領域に踏み込んで初めて合格が手に入るのかもしれません。

 小ネタ

 私は、大学生活をかなりの田舎で過ごしました。毎年、漢検の試験会場は自分が通っていた大学でした。会場は県内で1つしかなかったのですが、1級の受験者は1つの教室に余裕で収まっていました。

 確か、15人程度だったと思います。

 しかも、みんな60歳以上のシニア層でした。それに、みなさん、リピーターらしく、友達のようで、試験後に仲良くしゃべったりしていました。

 1級に合格して以来、一切漢検の受験はしていませんが、自分がシニアになったときに、漢検1級を趣味として満点をめざす生活して友人たちと頑張れるのであれば、それはそれで楽しそうだなと思いました。

 資格試験が好きなほうですので、30年後くらいに、本当に漢検を受験しているかもしれません。